銘柄間のPER比較は危険? 正しく使うコツを覚えよう
PER PBR ROE 3大指標の正しい使い方(1)
PERってどんな指標?
PERは、株価が当期の「予想」純利益に対して何倍に相当するかを示す。時価総額を純利益で割っても計算でき、赤字予想だと算出不能。倍率が低いほど株価は割安と考えられる。日経平均株価の構成銘柄の平均PERは5月9日時点で17.4倍で、約3年ぶりに高い水準となっている。
30倍などPERが高い場合、市場はその企業の成長性に期待を寄せ、将来的な利益の増加を見込んでいると考えられる。PERが10倍以下など低い場合は、成長が限定的であると予測しており、株価がそれに応じて下がっていると考えられる。
株価が下がるとPERは低くなるが、それだけで株価が割安と判断するのは危険。業績が悪く、株価がそのまま上がってこないことも考えられるためだ。また、利益予想の増加もPERの下落要因になるため、決算発表のタイミングで急変することもある。
ITやテック系などは派手で人気もあり、成長性も評価されやすく、PERは高めになる。一方で、素材や部品のメーカー、商社などは景気に左右されやすい。また、地味で知名度が低い企業も多い。そのため評価がされにくく、PERは低くなることが多い。
実は落とし穴も多いPERの使い方
PERを使うと、その企業の純利益から見て足元の株価がどんな水準にあるかを判定できる。一般的にはPERが低いと株価が割安で、高いと割高と評価されるが、「A社よりB社のPERが低いからB社は割安」「日経平均株価のPER17倍より低いから割安」といった使い方には落とし穴もあり、要注意だ。
成長率を加味した「PEGレシオ」を併用する
1つ目の落とし穴は、PER何倍が適正かは銘柄の成長速度で変わること。マーケット・キャスターの叶内文子さんは、「東京エレクトロンのPERは約50倍。割高にも見えるが、利益の伸び率も大きく、来年にはPERが大きく下がることも考えられるため、PERだけで判断するのは難しい」と話す。
「PERは企業の成長率を加味した指標ではないため、特にグロース(成長)株の価格を見る時には、当期純利益の成長率を基準に株価の割安性を測定する指標である『PEGレシオ』を併用して、割安かどうかを判断するのが有効」と山和証券の志田憲太郎さんも続ける。「利益の成長率を調べる期間は長ければ長い方が望ましいが、まずは過去3期分程度の平均値を使って計算するのがお勧め」(志田さん)。PERの数字では割高に見えても、成長のスピードを加味すると割安と判定できる場合があるのだ。
PERは過去推移を確認して今の水準を測る
PERは業種やその企業がどの成長段階にいるかで差が出る指標のため、同業他社などとの比較ではなく、その会社の過去の推移で見る、という声も取材を行った達人から多く上がった。過去と比較してPERの天井や底を知った上で、今が割安な水準かを知ることは重要だ。
複眼経済塾の小笹俊一さんは、「同業他社でもビジネスが全く同じ企業はなかなかなく、比較は参考程度にとどめる。それよりも同じ企業の過去のPERの平均と比べて今が割安・割高かを見るのが効果的」と話す。
経常利益×65%で"真のPER"が分かる
2つ目の落とし穴は、ノイズが多いことだ。PERの計算式では純利益を使うが、これにはその期にたまたま発生した一時的な特別損益も加味されるため、企業の本来の実力とPERの数値がずれることも多い。特別利益が発生すると、PERの計算式の分母が大きくなり、PERがその会社の実力よりも低くなる。逆に特別損失が発生すると分母が小さくなり、PERが実力より高くなってしまう。
ライフパートナーズの代表取締役で個人投資家の竹内弘樹さんによると、「ノイズを除くには、特別損益を加味する前の経常利益に65%を掛けた数値を使い、"真のPER"を出す必要がある」という。
景気敏感株は"あえて"PERが高い時に注目
PERが使いづらい業種があることも忘れてはいけない。景気に左右されやすい総合商社や自動車などの景気敏感株は、逆にPERが高い時が株の買い時となる。こうした業種は、景気の底ではどんなにいい企業でも業績が悪化し、純利益は減少する。そのため、PERは反比例して高くなる。
株式アナリストの鈴木一之さんは「この場合、PERだけを見ると割高のように見えてその企業には手を出しにくくなるが、実は株価は底の安値圏で買いのタイミングであることが多い。景気との連動性が高いほど、株価から見る売買のベストタイミングとPERがずれてしまう」と話す。「このように成長株とは逆の動きをするため、あえてPERが高い時に注目するのも有効だ。業績が好調で利益が増加し、PERが低い時が株価の天井となることも多い」(鈴木さん)。このような例外的な見方が必要になる点には注意したい。
(勝間美月)
[日経マネー2024年7月号の記事を再構成]
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