真っすぐ一本に延びるキャリアを歩いてきた人はいないはずです。誰しも「キャリア迷子」になった時期や、振り返るのもつらい「キャリア黒歴史」時代を経て、今の場所にたどり着いているのではないでしょうか。働く女性たちの脱・キャリアもやもや戦記に迫ります。

 女性の妊娠・出産の選択肢を広げる手段の一つとして卵子凍結が注目を集めている。自治体や一部の企業では、卵子凍結に関わる費用の助成を始めるなど、支援する動きが活発化。こうした社会の流れの中、三井住友海上火災保険は2024年4月から日本初の凍結卵子専用保険の提供を開始した。

 この凍結卵子専用保険の開発に携わったのが、現在、同社の企業営業部で営業職を務める小坂愛さん(44歳)だ。

三井住友海上火災保険 総合営業第一部の小坂愛さん。入社以来、営業事務を担当してきたが、現在は営業職がメイン。開発に携わった凍結卵子専用保険は、未受精卵子の凍結保管サービスを行うLIFEBANKの「卵子バンク」利用者向けに無償で付帯。凍結卵子への偶発的な事故を補償する
三井住友海上火災保険 総合営業第一部の小坂愛さん。入社以来、営業事務を担当してきたが、現在は営業職がメイン。開発に携わった凍結卵子専用保険は、未受精卵子の凍結保管サービスを行うLIFEBANKの「卵子バンク」利用者向けに無償で付帯。凍結卵子への偶発的な事故を補償する

 小坂さんは、同社で営業事務をしていた30代前半の頃、不妊に悩み、病院で治療を受けた経験がある。当時、小坂さんは「人に言いにくい」「自分はキャリアを優先したために妊娠のタイミングを逃したのではないか」など、さまざまな葛藤を抱えていたという。

 「まさか自分が不妊に悩むとは思っていなかったので、不妊治療を始めたときは自分に対するもやもやがたくさんありました。妊娠に関する知識を学ばなかった、情報が少なかった、誰も教えてくれなかった……など、いろいろな思いがありました。

 通院のために時間休を取る際は、理解してもらえるかどうかが心配で、男性の上司には言えなかったんです。女性の同僚たちには正直に伝え、フォローしてもらいましたが、申し訳ない気持ちもありました」

 病院で治療を受け始めてから5年後、無事第1子を出産した小坂さん。産休と育休を経て、復帰し、営業事務と兼務しながら営業職をメインに担うことになった。

DXが進み、事務と営業の兼務が決定。「自分に何ができる?」

 「私は03年に一般職として入社以来、長年営業事務を担当してきました。近年、会社の人事制度の改革で一般職の枠組みが廃止され、事務のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んだことから、営業職も兼務することになったんです。定年まで事務職を続けるつもりでいたので、兼務の話を聞いたときは驚きましたが、今より大きな仕事ができるかも……と、前向きな気持ちでした」

 しかし、このキャリアの大きな転機が「いったい、自分には何ができるのか」という悩みのトンネルの入り口になるとは思ってもいなかった。

<小坂さんが“キャリアのもやもや”から脱せたポイント>(1)上司のある一言をきっかけに発想を変えた/(2)自分の思いをしっかり言語化した