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島民悲願の小笠原航空路 道遠く 工法、環境配慮、航空機選定 課題山積

都は小笠原諸島(小笠原村)と本土を結ぶ航空路の開設に向け、今年度は約5億円の予算を計上し、空港建設を見据えた気象調査などを進めている。空港の構造や工法なども並行して検討するが、世界自然遺産に登録された島々固有の生態系に影響を及ぼすことは許されず、環境面での配慮も欠かせない。航空機の機種選定にも時間を要し、島民の悲願実現の時期は見通せない状況が続いている。(力武崇樹)

本土まで片道24時間

「航空路の開設は島民生活の安定と国境離島である小笠原諸島の自立的発展、住民の安心、安全を守る観点からも極めて重要だ」

小池百合子知事は9月28日の都議会定例会代表質問で航空路について問われ、早期開設に意欲を示した。

小笠原諸島は本土から約1千キロ離れ、中心的な島である父島と本土を定期的に結ぶ交通手段は約6日に1便、片道約24時間を要する船に限られている。島内の診療所で対応できない病気やけがは自衛隊などに本土への救急搬送を要請する必要があり、妊婦は産前産後の数カ月間、島を離れる生活を余儀なくされている。

航空路を開設し、移動時間を短縮させることは生活の質の向上だけでなく、島民の命を守ることにもつながる。小笠原村の渋谷正昭村長は今年7月に開かれた国、都、村3者による第11回航空路協議会で「早く議事が空港の機材や滑走路の長さの決定になることを願う」と早期開設に向けた思いを述べた。

2社の航空機を検討

空港の候補地は父島周辺の兄島や聟(むこ)島などが俎上(そじょう)に載ったこともあったが、現在は父島西部で世界自然遺産の区域外に位置する洲崎地区が最有力となっている。都は1千メートル以下の滑走路を想定する。

航空機はフランスとイタリアのメーカーがそれぞれ開発する機種を中心に選定作業が進む。都によると、フランスの航空機は1千メートル程度の滑走路で離着陸でき、最大48人乗り。飛行機とヘリコプターの機能を併せ持つイタリアの機種は最大9人乗りだが、400メートルほどの滑走路のほか、ヘリポートでも離着陸可能という。

両機種とも、片道の所要時間は2~3時間程度で、現在より大幅に短縮される。ただ、日本で運行できるようになるまでに仕様が変更される可能性もあり、機種選定には数年程度かかるとみられる。

自然との調和

都は滑走路の位置や方向の検討に必要なデータの収集に向け、令和2年に洲崎地区の気象調査に着手した。航空機は横方向からの風で飛行が不安定になりやすく、これまでの風向きデータから、南北方向に滑走路を敷設するのが適当と見込まれている。

一方で、島民や都にとって、観光資源となっている世界自然遺産の景観や生態系の保護も大きな課題だ。大陸と一度も陸続きとなったことのない島々には、独自の進化を遂げた生物や植物が数多く生息する。

都は昨年7月、航空路の検討状況について世界遺産委員会に報告。委員会の諮問機関である国際自然保護連合から「開発には侵略的外来種の侵入を防ぐための厳格な措置を伴うことが必要」との指摘を受けた。

航空路開設に伴う空港の建設や観光客の増加と自然保護との両立は容易ではないが、都の小嶋俊幸・小笠原振興担当課長は「自然環境との調和を図りながら、できるだけ早期に航空路開設を実現できるよう検討を進めたい」と話している。

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