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〈特報〉どうなる救済新法、マインドコントロール下での勧誘焦点

旧統一教会の被害者救済に向けた新法について協議する与野党のメンバー=4日、国会内(矢島康弘撮影)
旧統一教会の被害者救済に向けた新法について協議する与野党のメンバー=4日、国会内(矢島康弘撮影)

旧統一教会(現世界平和統一家庭連合)の被害者救済に向け、岸田文雄首相が今国会での新法提出を目指す考えを表明した。悪質な寄付勧誘を禁じ、本人に事後の取り消し権を認める大枠では与野党間の一致があるものの、家族を含めた救済の範囲・方法を巡ってはなお隔たりがある。親の影響で入信を余儀なくされた「宗教2世」からは、迅速な立法化に期待の声が上がるが、拡大解釈で「信教の自由」が侵されないか、宗教界には不安もくすぶる。

先行する野党案

新法については、立憲民主党と日本維新の会などが早々に独自案をまとめ、国会に共同提出。法案作成に手間取る政府・与党に代わり議論のイニシアチブを握る。

野党案は、相手に恐怖や不安を植え付けた上で「救済」をうたって高額献金を要求するような、いわゆるマインドコントロール下での寄付を禁止。もっとも、本人の内心と絡み合い、明確な定義が難しいマインドコントロールという文言はあえて使わず、勧誘側の逸脱行為に網をかける構造になっているのがポイントだ。

具体的には、自由な意思決定を難しくする逸脱行為として①暴行、脅迫、監禁②霊感手法③心理学の乱用-の3類型を挙げ、これによって本人が寄付を行い、「著しい損害」が生じた場合には取り消しにより返還が認められる、とする。「著しい損害」の目安としては年間可処分所得の4分の1を提示している。

またマインドコントロール下にある本人が被害とは思わず、取り消し権を行使しないことを想定し、親族による寄付の取り戻しを可能とする「特別補助制度」を設けているのも特徴。配偶者だけでなく4親等内の親族も、家庭裁判所に特別補助開始の審判を請求できる仕組みとなっている。

政府案の焦点は

野党案で議論になりそうなのは、③の心理学の乱用類型だろう。条文では「心理学に関する知識および技術をみだりに用い」とあり、旧統一教会の事例でいえば、当初は「自己啓発セミナー」「運勢鑑定」などと称して近づき、徐々に教義を信じ込ませる一連の勧誘手法を指すと説明している。

だが「心理学の乱用かどうかを検討するにあたり、教義の内容に立ち入らざるを得ないのでは」と、別の宗教団体関係者はこの点への憂慮を口にする。

岸田首相は、政府提出法案で新法を成立させる考えを示し、連立を組む公明党と悪質勧誘の禁止やこれに基づく寄付の取り消し、損害賠償請求などを盛り込むことでは合意した。ただ宗教団体の創価学会を支持母体とする公明では、寄付一般に対する過度な抑止となることを警戒し、慎重論も強い。布教の自由に配慮しつつ、具体的にどのような勧誘行為を規制対象とするかが今後示される政府案の焦点の一つになりそうだ。

信者の家族による寄付の取り戻しを巡っては、自民・公明で「子や配偶者の被害救済」を図る点では一致しているものの、野党案のように請求権者を親族まで広げるかどうかは明らかになっていない。公明は子供や配偶者など限定的な適用を求めている。

「宗教2世」」は歓迎

「子供であろうと大人であろうと『教義』を信じ込まされ、事実上献金を強制されてきた。それはもう許されないと、国が姿勢を示す意義は大きい」

両親が旧統一教会信者である「宗教2世」の高橋みゆきさん=仮名=は、救済新法に向けた政府や国会の動きを歓迎する。

ただ新法が旧統一教会のみを標的とするものなら、「本当の救済にはならない」と感じる。新興宗教に限らず、団体による悪質勧誘を広く規制する立法になることを願う。

長く霊感商法被害者の支援に携わってきた渡辺博弁護士も「大きな前進」と評価する。「与野党で駆け引きはあるだろうが、まずは立法。宗教の被害は多岐にわたる。一過性にせず、その都度議論し、取るべき救済策を話し合うべきだ」と期待を込めた。

「反セクト法」仏も立証に苦慮

立憲民主党と日本維新の会がまとめた救済法案が参考にしたとみられるのが、フランスの「反セクト(カルト)法」だ。2001年に制定され、宗教団体だけでなく人権を侵害する「カルト的な運動」を広く規制している。

同法に詳しい山形大の中島宏教授(憲法)によると、その立法過程では、マインドコントロールを明確に禁止することは「全ての布教行為に拡大適用されかねない」など宗教界から懸念が上がり見送られ、「判断力をゆがめる技術による依存状態」につけ込むことを、刑法犯罪として規定した。

ただ被害などの通報は年間2千~3千件とされるが、条文のあいまいさや立証の難しさから、適用は年間数件程度。「人の内心の問題を立証するのは難しく、使いづらい法律になっている」(中島氏)という。現状では実用法というより、むしろカルト規制の「象徴」としての意味合いが強い。

それでも中島氏は「カルト対策の法的な武器を増やすことは重要だ」と強調。詐欺的商法を行う宗教団体に刑事罰を科したり、カルトの危険性について国が注意喚起したりするフランスで行われている対策は、「日本でも有効で十分導入可能ではないか」と話す。


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