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「セメントの記憶」 ジアード・クルスーム監督 シリア人が描く破壊と建設

「人を殺さぬ建設労働者は、シリア人の希望の象徴でもある」と語る(藤井克郎撮影)
「人を殺さぬ建設労働者は、シリア人の希望の象徴でもある」と語る(藤井克郎撮影)
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 多くの犠牲者と難民を出して泥沼化しているシリア内戦。その悲劇を扱った映画の中でも、シリア出身のジアード・クルスーム監督(37)による「セメントの記憶」はちょっと毛色が変わっている。レバノンに住むシリア人の建設労働者を見つめた作品で、ドキュメンタリーながら登場人物は一言も言葉を発せず、見る者の想像力を呼び起こす。(藤井克郎)

                  

 東京での公開に合わせて来日したクルスーム監督は「戦後ずっと建設ラッシュが続く日本も、この映画の世界と無縁ではない。“誰”がこれらのビルを作っているのか、身近な問題として考えてほしい」と訴える。

 とはいえ、「セメントの記憶」は決して何かを声高に主張してはいない。かつてレバノン内戦で街が破壊されたベイルートは、現在は高層ビルの建設に沸いている。カメラはその一つの現場に入り込み、昼は地上40階の鉄骨の上で作業し、夜は水たまりだらけの薄暗い地下で寝泊まりするシリア人労働者の表情をとらえる。彼らの瞳にはシリア内戦を報じるテレビ画面が映り込むなど、凝った映像が印象に残る作品だ。

 「ビルの撮影許可が下りるまでの約1年間、カメラマンとじっくり話し合い、インタビューで構成する通常のドキュメンタリーの方法は取らないと決めた。『壁紙のような映画』にしようと思ったんです」とクルスーム監督は振り返る。

 屋上から望むベイルートの海岸線は美しいが、外出が禁止されているシリア人労働者は間近に見ることができない。この美しさと地下の劣悪な住環境の醜さを対比させると同時に、シリアで爆撃を受ける建物の映像も盛り込んだ。

 国内に残る知人に撮影してもらったが、「シリアで建物が崩壊して粉塵(ふんじん)になったセメントが、レバノンでは固められて建物になっていく。破壊から建築へセメントの輪をつなぐことで、シリア人の痛みが浮かび上がってくれば」と語る。

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