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【編集長インタビュー】どうせやるならメジャーリーグ=起業家・福山太郎氏

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福山太郎氏(4月に行われた新経済連盟主催のパネルディスカッションにて) Photo: 一般社団法人 新経済連盟

 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版では、既存の価値観にとらわれずに社会を変えようとしている各界のリーダーたちへの編集長インタビューをお届けしています。

 今回はシリコンバレーで起業し、現在も米国で事業展開している数少ない若手の日本人経営者、福山太郎氏(28)とのインタビューです。米国で起業した背景と成功の秘訣、そして日本人経営者が置かれた環境についてお話を聞きました。

 福山氏は福利厚生サービスを企業に提供するAnyPerk(エニーパーク)を2012年にサンフランシスコで創業。CEOである同氏によると、現在は全米で約1000社を顧客として各種施設やサービスの割引を提供している。

どうせやるならメジャーリーグ

ー起業するまでの暮らしのほとんどが日本で、米国と強いつながりは特段なかったにもかかわらず、なぜ米国で起業しようと思ったのか 

 どうせやるならメジャーリーグという気持ちだった。日本がダメだから海外に行こうという意識はなかった。「なぜ海外か」とか「日本と比べると」とかマクロな意見をよく聞かれるが、マクロで考えて起業する人はあまり多くないと思う。世界でナンバーワンの会社を作りたいのであれば、一番いいのは資金、人材、そして市場規模がある場所。自分たちにとってそれはシリコンバレーだった。

 「僕が世界を変えるぞ」とか「世界に行って日本が変わるぞ」とか「もっと海外に行こう」といった意識は全くない。僕が米国で成功すれば、日米の距離が縮むかもしれないという漠然とした思いはある。しかし、坂本龍馬のような「侍魂でやる」というのとは違うのが正直な気持ち。それよりも、どこでやりたいのか、どうやって成功するのかというのが自分の基軸だ。

ー高校時代に米国に1年間交換留学をしているが、そこでの経験はどのようなものだったか

 「日本から来たのか、日本ってすごいね」と話しかけられると想像していたが、実際には僕が考えていたほど「日本=Cool」とは思われていなかった。むしろ「まだ侍が歩いているんだろ」などと少しバカにされていた。思っていたほど日本は特別扱いされていないというのが最初のカルチャーショックだった。 

 そんな中、イチロー選手や松井(秀喜)選手が活躍していて、同じ人たちが「イチロー!」と叫んだり、「ゴジラすごいな、知り合いか?」と聞いてきたりして、同じ日本人でも活躍している人がいるんだと思い、自分もそちら側に回りたいと思った。

「出来る理由」を探し続ける

ー留学先はセントルイスの郊外。車はなく、ホストファミリーも家に不在がちという環境で、1人になることが多かったとのことだが、そこで学んだものは

 「出来る理由」を探し続ければ成功するということを体験できた。自分なりに何が出来るか? 例えば「僕をパーティーに連れて行くとこんな面白いことが出来る」と(宴会)芸を追加したり、車で迎えに来てくれたらハンバーガーをおごるよと友達に声を掛けたりするなど、できるだけクリエーティブにやっていくことで留学の最後のほうは楽しめるようになり、1人で過ごさない生活になっていった。

 (留学を)断念して帰る人が多い中、実際諦めずにやっていると、楽しい生活に持っていけるという経験は自分の中で大きなブレークスルーだった。半年ぐらいかかったが。最初の3~4ヶ月は英語が話せなかったし、半年以降ようやく週末に予定が入るようになった。

 ニューヨークやサンフランシスコに行った同じ留学プログラムの参加者には、結果的に英語を話せず帰ってくる人もいた。日本人で固まったのか、英語を使わなくても済む環境だったのかもしれない。そういう意味では、かなり苦労する環境に入れたのは、当時を振り返れば相当辛かったが、結果的にラッキーだったと思う。

 これは今の会社の経験につながっている。来たときは何もなかったし、ビジネス英語も話せず、出来る理由を探し続けてここまでたどり着けた。出来ない理由よりも出来る理由を探し続ける強みは、留学生活で身についた。

まずバットを振って慣れること

ーなぜ日本人起業家は米国には少ないのか

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4月に行われた新経済連盟主催のパネルディスカッション Photo: 一般社団法人 新経済連盟

 日本を離れる意味・利点がない。(米国で)夢を追いかける以外、(日本は)市場が大きく、競合は少なく、人材も優秀。インターネットも普及していて定義によってはやり易い、かつ成功しやすい市場。日本語が話せれば海外からの競合に対して優位性もある。どう考えてもプロ・コン(良い点と悪い点)をリストアップすると日本でやったほうが確実に良いので、夢を追いかける以外、日本を離れる理由はない。

 海外に来ている人は論理的な理由でなく、「アメリカで世界一を取りたい」とか「やるならシリコンバレー」といったロマンで来ている。つまり、ロマンを追いかける以外に日本を離れる理由が無く、またロマンだけでは長続きしない、その2点が背景にあるかと思う。自分は無知だったし、若かったし、家族もいないのでリスクもなかった。

 また日本人は米国に行く前に完璧になろうと求めすぎ。若い日本人起業家からは「ベストの商品が出来ていない、顧客がまだいない、英語ができない」といった言葉をよく聞く。それに対しては「自分なんてそれら全てがなかった」と言っている。野球をできるようになりたければ、まず最初にすべきは本を読むことではなく、外に行ってバットを振って慣れること。日本人は完璧になることを求めて失敗を恐れている。

ー米国で日本人起業家が少ないことをどう思うか

 あまり何とも思っていないのが本音。もう少し国を意識する人なら「寂しい」とか「もっと増えるべきだ」と思うかもしれないが、自分に出来るのは会社を成功させること。相談相手がいないので寂しいが、ポジティブに捉えると貴重な体験をさせてもらっていると思う。先駆者不在ならではの体験をさせてもらっている。

 他の人は通常、週末などは自分と「共通言語」を話す人と過ごしたいと思うらしい。言葉通り、日本人は日本人と日本語で、中国人は中国人と中国語で。ただ、自分は経営者なので、例えば日本の駐在員と話してもかみ合わない。ある意味違う仕事をしているからだと思う。例えばリストラの話をいきなりしてもポカンとされる。よって、同じ経営者と話しているほうが話しやすい。となると、日本語が話せて経営者というプールは本当に少ない。ただ日本にいくと同世代で起業している人とご飯を食べに行ったりはする。

ー孤独か? 

 今は社員も増えてそんなことはない。ただ始めた時は、自分と同じ立場にいる人、つまりこちらで起業した日本人があまり多くないので、例えば投資家と会うときに何を準備すべきかなど、先例がいないのは辛いと感じる時はあった。

なぜなら人生は短いから

ー野球の例えをよく口にするが、野球少年だったのか?

 実は野球の経験はゼロで興味はない。しかし、経営者としてよくアスリートの本を読む。海外に1人で行って、努力して成功した日本人の経営者はあまり多くないので、その時にイチロー選手や黒田選手などの本を読み、孤独の中、皆こうやって頑張っているとインスパイアされることがある。

ーなぜAnyPerkのビジネスモデルに行き着いたのか

 会社は人材が一番と誰もが言っておきながら、米国では平均2年で社員は転職を考えるという調査結果もある。そして13%の社員しか満足していないとの結果もある。人材が辞めて、会社はさらに採用にお金をかける。そうではなくて、既存の人材が満足できるようにお金を使うべきだと。 

 日本で同じ(福利厚生のアウトソーシング)ビジネスをやっていた会社がある一方で、人口が3倍の米国では当時は同じような会社はなかった。市場は大きいし、日本で成功しているビジネスモデルだとピッチしたら結果的に(ベンチャーキャピタルなどから)資金調達ができた。

ー今後の目標としてやはり上場は目指しているのか

 具体的な目標はないが、パブリック(上場)は一つのマイルストーン。

ー米国を含め、起業を目指している日本人へのアドバイスは

 サンフランシスコに行くと、カフェで世界中から来た連中が下手な英語で、しかし物すごい熱意で起業について語っている。そして起業に必要な資金を調達している。 

 何をやりたくて、そのために何が必要なのかを考えることが大事。最初にやることは完璧を目指すのではなくて、とにかく行動すること。なぜなら人生は短いから。

インタビューを終えて

 春に行われた新経済連盟主催の新経済サミットでも米国でスタートアップに成功した若手日本人アントレプレナー(起業家)として注目され、その秘訣について語った福山氏。周囲の見方とは異なり、本人は日本人であることを特段意識せず、気負ったところが全くなかったのが印象的だった。その一方で、留学時の辛い経験の中で日本人メジャーリーガーの活躍に勇気付けられ、諦めなかったことが現在の経営にもつながっていると話した。福山氏本人が言う通り、むやみに海外に行けば良いということではないが、同氏の軌跡をみると、人は逆境にて一段と強くなり、その視野を広げられるのだということを改めて意識させられた。創業時と異なり、現在は競合他社も現れたAnyPerkと福山氏が今後どう成長していくのか注目したい。

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Photo: Taro Fukuyama

福山太郎

慶應義塾大学卒業。2012年AnyPerkを米国にて創業。同年、シリコンバレーのインキュベーターのYcombinatorに日本人として初めて参加。Salesforce,Virgin America,Adobeを含む1,000社以上の会社に、福利厚生のアウトソーシングサービスを提供。同社はDCM, Ycombinator, Andreessen Horowitzから合計$13Millionの投資を受け、2015年にはFastCompanyのMost Innovative Company 50に、Google, Apple等と並んで選ばれる。

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西山誠慈

2011年よりWSJ東京支局にて経済政策報道の編集責任者を務め、アベノミクス発表当初から日本銀行による大胆な金融緩和政策などについて報道を行ってきた。2014年には、プロを目指す高校球児を1年にわたって取材した長編記事を執筆。2014年12月より現職。WSJ入社以前は18年間ロイター通信社にて金融市場、経済政策、政治、外交など幅広い分野を担当。1993年早稲田大学政治経済学部卒業。ニューヨーク出身。

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